住まい手には心地よさを、
街並みには潤いを与える建物。
そんな地域との好循環を育む空間をつくりたい。

大規模木造設計部

鳥山 聡Toriyama Satoshi

資格
一級建築士
得意分野
戸建注文住宅/賃貸住宅/施設建築物
経歴
  • 1978年
    • 埼玉県生まれ
  • 2002年
    • 芝浦工業大学工学部建築学科 卒
    • 三井ホームデザイン研究所 入社
受賞歴
  • 2009年
    • HOUSE OF THE YEAR
  • 2018年
    • HOUSE OF THE YEAR 総合グランプリ

土地活用の実績を活かした
3階建×2棟の賃貸住宅

建築基準法や自治体の条例などの規制をクリアし、敷地環境を最大限に活かした3階建て共同住宅。
収益性だけではなく、長く住みたいと思わせる意匠性の高さも魅力の賃貸住宅となっている。

「法令や条例とその緩和策への理解を深めていくことで、敷地活用の幅を大きく広げることができます」と、法解釈の重要性をデザイナーの鳥山 聡は語る。注文住宅のみならず、法規制への対応が特に重要となる賃貸住宅や保育所、施設建物に数多く関わってきた鳥山に、収益性の向上を求める施主から、戸建賃貸住宅で検討中のプロジェクトの再設計プランが依頼された。木造3階建共同住宅(以下木三共)に関する規制緩和を熟知し、実績を積み重ねていた鳥山は、「案件を見てすぐ、木三共で2棟建てというイメージが湧きました」と、当時を振り返る。

木三共には、鉄骨造やRC造に比べて建築コストの低減につながるメリットがある。「3階建てを2棟としたことで収益性を大幅に上げることができたと思います。完成と同時に満室となり、お施主様からも喜ばれました」と、その成果を語る。

最新の法改正を理解し、
検討を重ねることで、
充実の賃貸計画を実現

従来では必要とされた敷地内の4m空地のスペースを狭めることができ、土地の有効活用を実現している。
3階建ての2棟構成、複数の間取りで空室リスクを軽減。
一定の高さの木を植栽することで条例が定める緑地面積の規制を緩和でき、土地活用につなげた。

確かに木三共のメリットは大きいが、その実現は簡単ではない。今回のような木造三階建て共同住宅では建物の周囲に十分なスペースを必要とする。「ただし一定の条件を満たすことでその要件を緩和できますが、そのためには行政側と交渉・協議し、確認申請を進める必要があり、法的な知識と経験の両方が求められます」と、対応の難しさを鳥山は語る。しかもこの地域には別の条例もあった。「条例では、住戸数に応じて一定数の駐車場が必要でした。駐車場数が多くなれば、その分建物を建てられる面積が減ってしまうので、条例を読み込みつつ、駐車場数が最小になる住戸プランの組合せを考えました」と、鳥山。その結果、単身者向けからファミリー向けまで多彩な間取りを用意でき、空室リスクの軽減にも貢献できた。
また、四季を通して豊かな表情をつくる3本のシンボルツリーは、地域に配慮し、ともに成長できる住まいという鳥山の「まちづくりの発想」を実現するものだが、実はこれも条例で定められた必要な緑地面積の縮小に一役買っている。「規制を逆に活用することで、住む人や街並みにも潤いを与える空間作りができたと思います」と、制約さえもまちづくりに活かしていく自身の姿勢を語った。

デザインにこだわり
長く愛着を持ってもらえる住空間に

北棟のアプローチ。アイアンの門扉や黒色のサッシが洗練されたイメージづくりに貢献している。
ベビーカーも余裕で取り回せるエレベータホール。ホール前のアクセントウォールはフロア毎に色違いになっている。

建物の設計においても、鳥山はデザインにこだわり、長く愛着を持ってもらえる住空間を目指したという。「緑が映えるように白をベースにした外観を考え、地域の方が見ても心地よさを感じられるファサードを意識しました」と、話す。枝振りが印象的なシンボルツリーをはじめ、アイアンの門扉や外構の植栽など、時とともに深まる味わいが期待できる。
しかも鳥山の配慮は外観に留まらない。ファミリー層向けの2LDKが入る北棟では子育て世代の住みやすさを考慮してエレベータを設置した。「お子さんを連れての移動が少しでも楽になればという思いからでした。廊下の幅もベビーカーの取り回しを考えてゆとりを持たせるようにしています」と、その意図を説明する。他にも、住戸ごとに壁紙の色を変えたり、室内窓やニッチを作るなど、その違いが個性となっている。「変化のある内装はお施主様の発案でした。入居者の方には他の住戸とは違う“私の住まい”を楽しんでいただければと思います」と語る。木三共を単なるコストダウンの手段とせず、意匠性に優れた賃貸住宅として提案する鳥山らしい言葉だ。

収益力のある単身者向けと、定着率の高いファミリー向けの二つを、
市場や条例、収益、意匠性といった多様な視点から考察し、
絶妙なバランスで実現させた、充実のプランになったと思います。

水栓金具と手洗い鉢はインターネットで購入。壁の緑色はタイルの色を見て決めたとのことだ。

珪藻土を塗るのは大変ですが
自分の手でモノや空間を作り出すのは楽しいです。

一枚の写真を手に鳥山が「子どもの頃の夢は大工さんでした」と話す。写真に映っているのは、自宅の手洗いコーナーだ。昔から手でモノを作るのが好きだったという鳥山が今はまっているのが、中古で購入した自宅を自ら手がけるセルフリノベーションだ。
「正面の白壁は珪藻土を塗り込んでいるのですが大変な作業でした。洗面台は、インターネットで配管の手順を調べ、手洗い鉢には排水トラップも忘れずに付けました」と、写真を見せながら鳥山が話す。混合水栓にして、お湯も使えるというから本格的だ。まだまだ改装途中で手を入れたいところばかりだが、少しずつ楽しみながら手を入れていきたいと話す鳥山の笑顔が一瞬、輝いて見えた。